玖/



 「うわ凄かー!」
  本当に驚いたように声を上げた。
 その上拍手まで。
 「…?」
  睨めば、彼は少しばつの悪そうな表情を浮かべて言った。
 「…騙して悪かね。どうしても大きな力の発動が必要でな」
  とりあえず合格、と付け足してにっこりと笑った。
  そこへ。
 「終わったのだ?」
 「鹿目さん!」
  もう一人の聖霊が、見計らったかのように飛び降りてきた。













































 「一度爆発させれば『力の出し方』を体が覚える。強引なやり方だが今は仕方がないのだ」
 「今は仕方がないって、どういう…」
 「分かれ、時間が無いのだ」
  『時間』は、きっと比菜の中に居る魔物の封印が解けてしまう期限だろう。
 時間が無いということは、つまりそれだけ比菜が消えてしまう確率は増えてしまうわけで。
  失いたくない大切なもの。
  だから、僕は力を手にする。

 「あのさ…訊きたいことがあるんだけど」
  ちょうど言葉が途切れたところで、躊躇い気味に口を開く。
 思っていた程嫌そうな顔もされず、視線で先を促された。
 「さっき虎鉄さんが、契約は魂の預け合いだから二度目はあっちゃいけないって言ってたけど、
  そしたら僕は鹿目さんと契約を結ぶことは出来ない…よね」
 「あぁ」
  鹿目さんの言葉を聞いてからずっと考えていたことだった。
 しかしその質問に対し、さして驚いた様子も、うっかり失念していたなんて様子も見せず、淡々と答を返される。
 「彼奴の言ってるのは只の理想論で、古い習わしなのだ。とうの昔に廃れた掟だな」
  名前は契約や主従関係に左右するから違えることは許されないけれど、
 召還の際に問題がなければ良いということだそうで。
 「随分いい加減なんだね…」
 「聖霊ば霊力の高い人間には逆らうこと出来ないけんね、仕方ないことなんよ」
 「まぁ滅多に無いことだな。…お前はそんなこと考える必要は無いのだ」
  きっぱりとそれで言葉を締めくくられ、少し腹がたったが。
 「良いな?基礎は今は必要ない、お前は只霊力を上げることだけをすれば良いのだ」
 「どうしてさ?」
 「お前が使役しなくてはならないのは聖霊だ。この際コントロールなどどうでも良い」
  聖霊には意志があるから、命令するだけで良いと。
 そして服従させるだけの力を。
 「契約は僕と猪里と…そうだな、凪が良いと思うのだ」
 「あ、じゃあ俺が凪ちゃん呼びに行くとです」
  猪里はそのまま水の上を歩いて滝の中に入ってゆく。













































  しかし、彼はふと何かを思いだしたかのように立ち止まった。
 「…またおかしか雨ば降ってきよった…」

  ぽつり、と天から滴が落ちてきた。

















040630.
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