肆/
護人様は何でも願いを叶えてくれるという。
特に霊峰富士に住む護人はとても強い霊力を持っており、従える聖霊もまた強かった。
故に、富士の護人に会えた者は居らず、会いに行こうとする者も居なかったそうで。
「ねぇ…お願いだよ、護人様に会わせてよぅ…」
「そんなに会いたいKa?」
つ、と顔を上げた。
壁に寄りかかって居る彼は横目に此方を見ている。
勿論答えは決まっているはずなのに、どうしてかすぐには応えられなかった。
「――…当たり前だよ…!護人様は願いを叶えてくれるんでしょう?」
まるで、試されているようで。
「そうKa。まぁ、当然だよNa」
「…あなたたちは…護人様の何、なんですか?」
ずっと気になっていた事だ。
まるで親しい者のように護人様の事を話す彼らは一体なんなのだろうか。
「夢見人Ha、知ってるKa?」
「知ってる」
聞いたことには答えて貰えず、逆に質問を返される。
―――夢見人は、護人様と唯一関わることが出来る人間だ。
普通の人は夢見人に会うことは叶わない。
「司馬が、夢見人なのHa?」
「司馬さん…が、夢見…人…なの…?」
驚きだけが頭を支配する。
司馬家の息子が、夢見人?
「そうDa…所詮人間でしか無いけどNa。
さて、お前はこの先を知る必要と、権利があRu。但し、踏み込んだら元に戻る事は出来ないZe?良いのKa」
透き通った目で軽く睨まれる。
今度は迷わずに答えられた。
「良いよ…比菜を助けること、出来るんでしょう?」
比菜を助けることが出来るのなら、何も要らない。何も怖くない。
「そうKa。…だってYo司馬、喋って良いZe」
紅い瞳の人は、僕の答えを聞いてから、ずっとしゃべらなかった彼に話をふった。
「…本当に、比乃は知りたいの?」
「――…何で、そんなこと聞くの」
透き通った、まるで水のような綺麗な声は聞けて嬉しかったけれど、それよりも。
それよりも僕は比菜に命を懸けることが莫迦らしいと言われているようで嫌だった。
いつもそうだ。
周りの人々は何時も比菜のことを避けて、罵って、あまつさえ殺そうとまでして。
どうしてそこまで比菜を否定しようとするのだろう?
多分こいつらも…。
「比菜の事を莫迦にする奴は許せない。誰だって…あんた達だって」
ぎりりと睨み付ける。
けれども司馬さんは何故か、何故か悲しそうな顔をして俯いている。
何がそんなに――…。あぁ、言葉に表せない。
「なんでそんな顔するんだ…ッ!あんたには関係なぃ、ッ」
それではまるで、同情されているみたいだから。
お願い、僕のために、そんな顔するのはやめてよ。
「…ごめんね、言わせて貰うよ」
僕が言葉の途中で泣き出して、それから泣きやむのを待っててくたのか、僕が落ち着いた頃、静かに話を始めてくれた。
「僕らは比菜ちゃんを莫迦にするつもりは無いよ。けれども…比乃は比菜ちゃんを助けるために、危険を冒さなくてはいけないんだ」
少し早口になった。
風の音がやけに耳につくな、と思った。
「比菜ちゃんは、最初から…生まれたときから魔物に取り付かれていたんだ」
「…ッ司馬!」
「あともう少しだから…お願い、少し黙らせて」
「チッ…コイツ等隣山のだから難しいんだYo」
紅い瞳をした人は面倒くさそうに壁から背を離して戸に拳を当てる。
ガタガタと音を立てていた戸や窓がピタリと止まった。
「良いZe、話せYo。但し手っ取り早くNa」
「有り難う―――ねぇ比乃、比菜ちゃんは魔物に取り付かれているんだ。
で、発作が起きる度に枷が外れていって、今はとても危険な状態なんだ」
カタ、カタ、とまた戸が鳴り出す。
「比菜ちゃんを助けるためには、自身も霊力を持っている富士の力と、それから――…」
風が窓を打つ音が強くなる。
たっぷり間を空けてから、再び静かに話し出した。
「霊力の高い血が必要なんだ。親族だと、尚良い」
ガタン、と一際大きな音が部屋に響いた。
040402.
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参
伍