終/



「比乃」
 呼ぶ声が聞こえたから振り返った。
 躰の動きにあわせて、髪飾りがシャン、と鳴る。
「もう少しで儀式が始まるのだ。さっさと社に来い」
 桃色の髪を持った聖霊は、煌びやかな衣装を身に纏っている。
自分のそれよりは、少しばかり劣っているだろうが。
「あ、うん…ごめん。比菜のところに行ってたから…」
「ああ――そうか…今日だったな」
 そう言って鹿目はゆっくりと目を閉じた。思い出しているのだろうか。

 あれから。
 躰の弱かった比菜は、封印が解けた所為で神子の加護が無くなり、染みついた神子の妖力で死んだ。
最後まで、彼女は目を覚まさなかった。
あっけなかった。護ると決めた彼女は死んで、替わりに自分は生き残った。
 神子は、今も自分の中に居る。

「でも…良いんだ、もう。それが比菜の宿命だったんだもの」
「先見か」
「うん。比菜が死ぬことも、こうなることも分かってた」
 あのとき。神子の力が躰に溢れてきた時に頭を巡った様々な映像。
 夢見人の『予知夢』のように全てが視えるわけでは無かった。
極近い時間軸に訪れるものが視える『先見』の中に、横たわる比菜が居た。
「…そうか」
 石段の一番上から景色を見下ろす。
目の前に続くのは長い階段。周りは低木の広がる、富士の斜面。
 背後には真っ赤な社が聳えている。
「もう儀式が始まる。主役が居なくてどうするのだ」
「分かってる。相変わらず煩いんだから…。昔とちっとも変わってないね」
「三年程度じゃ大して変わらないのだ」
「そうだね」
 石段に背を向けて社に向かって歩く。
この三年間で変わったのは周りの環境と自分の身長ぐらいだ。身長は、随分伸びた。
「ああ…でも今日、もうひとつ変わるか…」
「早く行くのだ!」
「分かってるよ、もう!」
 騒がしく鈴を鳴らしながら走る。
重い衣装に息を切らしながら、豪勢な社の扉を押した。

「これより、新しく御山を統べる護人様の就任の儀を始めます」

 そう、これが僕の運命なのだから。



































           タ
 灰   ソ ナ 
   









































 唄おう。それが決して自分のためじゃなくとも。

















050917.
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弐拾