Bonus Track
こもりうたのメロディー
緩やかなカーブを描く七色の橋はあっけなく薄らいで消えた。
地を潤す雨粒は降り止み、空を濁す雲は風に流され、天は徐々に晴れ上がってゆく。
「Ahー……消えちまっTa……」
「綺麗やったね。やっとこん公園の名前ば分かったばい」
「”見晴らし公園”?」
「そ」
子供の身長ではこの滑り台に登っても街は見えない。
しかし、逆に大人になるほど滑り台に縁は無くなり、結局の所、此処から市内は見渡せないのだ。
この公園を作った人物は、何を考えて此処に滑り台を置いたのだろうか。
「A、そうDa」
「どうしたん?」
「ちょっと待ってTe!」
かんかんかん、と金属の高い音を響かせ階段を駆け下りた。
そのままの勢いで荷物を乗せた古びたベンチに走り寄ると、ごそごそと鞄の中を漁りだす。
ご丁寧に鞄の上に翳された傘が、上手い具合に取り出した物を隠していた。
それを持った手を背に回し、行きと同じように駆け戻ってきた。
「何持ってきたん?」
「HAHAH〜N☆何だと思うYo?」
質問をしておいて答えを待たずに、ジャン!という効果音をつけて取り出したのは、淡いブルーの小さな箱だった。
どこぞのブランドのようないかにも高級そうな箱ではなく、何処にでも売っていそうなクラフトの箱。
受け取って掌に乗せるとすっぽり収まってしまう程、小さな箱だった。
「開けてみTe!バースデイプレゼントだZe」
「え……あ……」
促されて蓋を引き上げてみると、出てきたのは木で出来た小さなオルゴール。
滑らかに光るほどのニスのコーティングがグランドピアノの形を一層引き立てている。
「何にするKa悩んだんだけどSa……この前の話聴いTeこれにしようTo思っTe」
「この前?」
「イエス。ほRa、この前のキッチンDe」
「ああ。でも……そげん前ん事、覚えてたん……?」
言われてみれば少し前、虎鉄が家に居たときに鼻歌を指摘されたことがあった。
少し前といったってもう随分と前の話だ。他愛もない会話だったから、虎鉄が覚えていたことには驚いた。
そういえば、その時やけに張り切って話をしていたけれど。
「もしかして」
「Soーそのも・し・か・し・Te!丁度骨董品屋De見つけTe」
(丁度?虎鉄が、骨董品屋で?)
「そんな……骨董品て……高かったん?」
「そんなんでもなかったZe?骨董品(つってMo結構新しい物みたいだSi」
「でも」
「いーNoいーNo、素直Ni受け取ってくれよNa」
そういって箱に入ったオルゴールを押しつけてきた。
確かに返品するわけにもいかないだろうし、此処に放置することも出来ない。元よりするつもりも無いが。
虎鉄の気持ちがつまった贈り物だから。
「うん……ありがとう」
「どうMo」
嬉しくて、どうしても引きつった笑みしか浮かべられなかったが、それでも虎鉄が笑い返してくれたので良いかなと思った。
箱を少しだけ虎鉄に預け、オルゴールをひっくり返し年期の入った螺子を巻く。
カチンと音を立ててそれ以上回らなくなり手を離すと、ゆっくりと流れ出すメロディー。
「ああ……やっぱり……」
もどかしいぐらいゆっくりと流れるメロディーは、いつかの、子守歌で。
「ありがと、虎鉄」
太陽の光が眩しかったが、それでも上手く笑えてるといい。
HAPPY HAPPY BIRTH DAY!!
050412.
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