A lot. 幕間



 わたしたちには、『心』があるのです。













































「猪里っ猪里!」
 名前を、呼ばれた。

「ちょっとこれ見てみろYo……傑作だRo!」
 自分を呼ぶ彼の座るデスクに陣取る大きなコンピュータを指して、彼は笑った。
 覗き込んでみれば画面には、延々と続く文字列が自動で流れている。何が可笑しいのだろう。

「だからさあ……これ作ってみTaデータなんだけどSa、どうYo?」
 再び上から下へと流れ続ける文字列に軽く目を通す。
 マザーとACAの仮定接続経路―――?介入可能ならば、マザーに……侵入……?

「な!凄くNeェ……?」
 凄いも何も。これは立派な犯罪ではないだろうか。減棒だけでは済まないほどの。
 確かにこのプログラム自体は凄い。
 抜けているところもいくつかあるが、一般的な感覚を持った者ならばそうそう思いつかないような指令がいくつもある。

「なんKa……猪里に誉められるっTe変な気分だNa。嬉しいけDo」
 ―――?
 変な気分なのに嬉しいとは、どういうことだろう。
 彼の考えていることは人間の中でも取り分け理解が難しいと、いつも思う。



「そんな難しいこと考えてんのNa……猪里っTe」



 そう言われてふと顔を上げた。
 首を傾げれば、彼は若干不機嫌そうに本を指さした。

「そRe―――、『超自然学の宇宙的論理と人間の価値』っTe……意味解んねェYo」
 どうやら今手にしているハードカバーのことを言っているらしい。
 その言葉に少し文面を見つめて、彼は科学者では無かっただろうかと再び首を傾げる。

「うっせェNa……プログラミング以外のことなんTeさっぱりなんだYo!」
  そういえば、いつだったか。
 ああ、そうだ一番最初の日。彼と自分が出会った日、彼は酷く常識の無い人間だったような。
 それならば先の彼の言葉も頷ける。論理的に考えられるといってもそれはこれに当てはまらない。

「それよりSa……。Ahー……、なんか、しないKa?」
 とても言い辛そうに、俯けた頬を染めつつ、目線は泳がせたまま、彼はそう言った。
 ―――ああそうか。彼がそうしたのは羞恥からか。
 そう思ったら、少しだけ、ほんの少しだけ、ほっとした。



「話……しようZe?」



 唐突にそう始めた彼に、握った手を離した。
 何を突然改まってそんなことを言い出したのか。

「うん……猪里のこと……知りたいNaァ、と思ってSa。何も知らないだRo」
 俺は知りたいよと言われて、思わず頷いた。
 じっと見つめてくる紅い瞳にいつの間にか魅せられていた。
 ―――俺も、知りたいよ。彼のことをもっと知りたい。もっともっと。

「なRa、話しようZe……?どんな些細なことでもSa、いいからYo」
 ちょっと照れくさそうに微笑った彼の笑顔を見ると、心が埋まる気がする。
 もっとその笑顔を見たいんだ。もっと、もっと。魅せて。













































「―――『心』が……痛いよ」
 わたしたちには『心』があるのです。
 見て、聞いて、知って、思って、会話して、人と関わって。
 そんな中でわたしたちの『心』は成長するのです。

 だから、ひとが死ぬというのは、とても悲しいことだと、解ったのです。













































 わたしたちには『心』が、あるのです。

















051222.
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