つづらと幼子
※配役は12巻参照。本当はこんな場面ありませんw
市川の郷に着き一旦荷を下ろすと、忠義に死んだ夫婦の埋葬のため墓所を訪れることになった。
示し合わせた亥の刻になって一行はそろそろと外に出た。
先頭の照文に提灯を持たせ、友雅と頼久がつづらを背負い、そのつづらの間に丶大法師が立った。
―――と。
「おい」
徐に、天真が声を上げる。
「ちょっと待て、俺が詩紋を抱えていくのか?」
「そうだ。何か不満があるのか?」
振り返って訊ねた頼久に天真は不満も露わに沈黙を返した。その僅かな間に首を捻る頼久と違って、
さっさとつづらを背負ってしまった二人に対しての不満だと気づいた友雅が軽やかに笑う。
「成る程。俺にもつづらを持たせろ……とそういうことかな?」
「いや、まあ、違わないが」
「……そのようなことを言っている時分では無いだろう」
気まずそうに視線を逸らした彼に友雅の笑みは深まる。溜息を吐いて諫める頼久の言葉を重々承知しているから、
天真も決まり悪げに、しかし語気を強めて彼に返した。
「言ってみただけだろっ」
そして詩紋を抱きかかえる妙真に足音高く近づいてその幼子を受け取った。
横抱きにする姿は男にしては丁寧な仕草で様になっている。要するに天真に詩紋を託したのは、
それが理由なのだ。頼久に託すより友雅に託すより絵にならないものは無い。
だが天真も男だからこの「役割分担」に理解はしても納得はいかなかったのだろう。
「ほら、そんな顔では詩紋は騒いでしまうよ」
「うっせ!だったら友雅が持つか?あ?」
「私には甚だ似合わないから無理だろう」
「俺だって似合って堪るか……!」
さてお忍びの道行きというのに、この騒がしさは如何なものか。
まあ悪くは無いかなと、心中で友雅は笑んだ。
060801
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